トピックスTOPICS

【3月2日開催】2022年度国際委員会 特別講演

『九州と世界のつなぎ方~東アジアの情報ハブを目指して~』
[講 師] 外務省 儀典総括官 石川 勇 氏

■石川 勇 (いしかわ いさむ) 氏 プロフィール

1974年熊本市生まれ(本籍は福岡県久留米市)。1997年、外務省に入省し、北京に留学。外務省本省での10年あまりの勤務を経て、2012年春に在上海日本国総領事館に赴任。2014年秋の九州経済国際化推進機構による中国への「オール九州官民合同ミッション団」派遣の企画、受け入れを行った。2017年5月に横浜市に出向し、国際局担当部長としてグローバル都市横浜の実現に向けて新たな施策に取り組む。その後、カジノ管理委員会国際室長を経て、2021年より外務省国際情報統括官組織第三国際情報官、2022年10月より現職。

 

【九州と中国を繋ごうと奮闘した5年間】

 2012年からの5年にわたる中国勤務では、中国の経済の中心である上海・華東エリアと自分の出身地である九州を経済的に繋ぐことに注力した。訪日インバウンドや日本酒等の中国マーケットへの売り込みにも尽力し、訪日中国人の消費額と中国人が越境ECで日本から購入した金額は、同5年間で3887億円から2兆9925億円に増加(7.7倍)している。日本酒の対中国輸出額も2011年から2021年の10年間で約50倍増となり、米国を抜いて最大の輸出先となった。

 

【国際化の意義と留意点】

 グローバル化、国際化は、経済利益の拡大、文化の多様化、豊かなライフスタイルの実現等に繋がる。横浜は、ラグビー、テニス、ジャズ、バーなど、多くの文化の日本での発祥地だが、それは横浜が早くに開港した歴史の故である。グローバル都市では、ヒト、カネ、モノ、情報が、海外と双方向にスムーズに流れることにより、情報のハブとなり、イノベーションの揺籃となり、諸都市を牽引するリーダーとなる。また、高められた都市ブランドが、更なるヒト、カネ、情報の流入を促す。ニューヨークなどは典型であろう。一方、海外とのつながりの拡大は、社会に一定レベルの変化をもたらす可能性がある。「ボーダー」によって守りたいもの(例:治安や社会の価値規範)について議論を十分に行い、それに基づいた「ボーダーコントロール」を行うことが重要である。さもなければ、「受け身」に回り、国際化を主体的に進めることは難しくなる。なお、その議論において、国籍で「レッテル貼り」をすることは避けなくてはならない。

 

【グローバル都市・地域を形作る要素、九州と世界を繋ぐ人材づくり】

 グローバル都市・地域は、七つの要素により構成されると考えている。即ち、①国際感覚を持つ市民、②世界に開かれた優れたビジネス・教育環境、③国際競争力のある地場企業とグローバル人材、④多国籍市民が活躍できる環境、⑤優れた行政施策と国際貢献、⑥豊かな文化と自然、幸福なライフスタイル、⑦これらの魅力の効果的な対外発信による高い都市・地域ブランド力、である。九州にはこれらの要素を満たしていく十分なポテンシャルがあると考える。

海外からの投資・企業誘致については、最近の半導体産業の事例が象徴するように、国際経済、国際政治の動向も絡んでくるため、本日は取り上げない。以下では、九州と世界をつなぐ人材づくりという観点から、九州が進めるべき施策などを考えてみたい。

 

①九州に在住する日本人で世界と繋がる人材
 語学力、豊富な国際経験、国際感覚を持った人材を増やす上で最も重要なのは、海外を初めて体験する時期を政策目標として早めること。若い時期に海外を体験させることで、一生の間に世界を飛び回る距離、即ち「ライフタイムトータルマイレージ」を大きく伸ばすことが可能。特に、高校生に豊かな国際経験を与えることが重要。一方、九州のパスポート保有率は18.4%と極めて低い。47都道府県で最高の東京レベル(37.8%)で飽き足らず、G7主要国(例えば英国は76%)レベルを目指すべき。また、英語の公教育も重要。自治体の取り組みにより、各県の英語公教育の成果には大きな差が生まれている。九州の複数の県が47都道府県で下から5位以内に入っている。非英語国ながら英語教育のプログラム改善で大きな成果を上げた韓国などをベンチマークとすべき。国際感覚とは、異なる文化的背景を持つ相手の視座を疑似体験できる「視座可動性」を持つことに他ならない。学校教員の国際経験を増やすことは子供たちの国際感覚を涵養する上で極めて効果的な手段。

 

②九州にいる外国人で自国と九州を繋げる人材、九州の国際化推進に貢献できる人材
 母国語と日本語に通じ、九州に縁を持つ留学生及び外国人経営者は、九州の国際化を進める上で重要な役割を果たしうる。また、外国人経営者の多くは留学をきっかけに来日しており、優秀な外国人学生の獲得は重要である。中国、韓国ともに若年失業率が高止まりしており、今は留学生獲得のチャンス。一方、九州の留学生は就職の際に域外に流出している。外国人が国籍に関わらず活躍できる環境を作ることが重要であり、留学生が九州で起業し成功したり、地元の財界でも外国人経営者がプレゼンスを示すような事例が増えていくことが望まれる。

 

③外国にいる「九州人」で各国と九州を繋げる人材
 一定規模の邦人コミュニティがある海外の大都市では県人会や大学同窓会の類の組織が存在する。また、九州各県から海外進出した企業は、現地情報に通じているところが多い。最もアクセスしやすく、活用の潜在力が大きいのは、九州各県及び政令市の海外事務所である。首長(知事、市長)が海外事務所長を自らのアンテナ&手足として使い倒せるかが鍵となる。海外事務所長は、帰国後に海外と全く縁がない部署に異動するケースが多く、国際人材としてのキャリアパスが確立していない。このような状況は早急に改善すべき。また、自治体でも、国際政治や国際経済の動向を把握して戦略を立案する機能を強化する必要がある。

 

④外国にいる外国人で、九州との特定の関係(ビジネス、留学歴、観光等)を持つ人材
 大学の同窓生は留学先に強い愛着があり、非常に強力な援軍になる。また、韓国、中国等との財界交流は、息を長く続けるべきであり、ビジネスを通じた利益の共有こそ、九州と海外とを緊密かつ継続的に繋ぐチャンネルである。次に、姉妹都市は、先進的施策の把握、職員(教員を含む)教育、子供たちの国際交流、ビジネス機会の拡大等、色々な活用可能性がある。更に、東アジアの主要都市からフライト2時間圏にある九州は地理的優位性があり、インバウンドを7県合同で推進し、訪日旅行消費、越境EC消費、九州でのサマースクールや留学などを拡大していくべきである。その際には、日中韓観光大臣会合、日中韓協力事務局等も活用し、九州と中韓の青年交流を戦略的に進めるべき。

 

【九州は日本と世界とを繋ぐゲートウェイ】

九州は、遣隋使の派遣からペリーの黒船来航まで、1200年間余り、日本と世界とを繋ぐゲートウェイだった。400年前には、朱印船貿易での一獲千金を夢見て、多くの九州人が東南アジアに渡って活躍した。我々九州人はそのようなDNAを受け継いでいる。アジアが世界の成長センターとなる中、九州は日本で最もアジアに近い場所にある。また、中国、韓国、台湾、シンガポールなど、各国・地域の経済と人材を取り巻く環境にリスクや不可測性も存在する中で、九州には一定の戦略的優位性もある。

九州は、地域レベルで発展戦略立案と資源活用を行い、人材育成や外国人が活躍できる環境整備を進め、東アジアの情報ハブ、イノベーションの中心となることを目指すべきである。自分もそのような九州の取り組みに貢献することができれば嬉しく思う。

入会案内はこちら