日時:2020年7月22日(水)
場所:福岡市・福岡市科学館
出席者:76名(会場55名、web21名)
(要旨)
今年3月に取り纏めた「九州の未来のエネルギー提言」の5つの戦略(①再エネの主力電源化、②蓄エネの社会実装、③脱炭素化の面的展開、④原子力の着実な運用、⑤環境金融の啓発)の具体化に向けて、基調講演とパネルディスカッションを行った。今後、戦略実行アライアンスの形成に向けて検討を進めていく。
環境問題やゼロエミッションを巡る問題は、変数が1つ多い連立方程式を解くようなもの。ロジカルな解はなく、その時代の政策や社会的価値観によって決まっていく。
コロナの影響もあり、東京一極集中ではなくグローカル(グローバル&ローカル)な世界が求められている。経済の根幹であるエネルギー分野において3E+Sを着実に実施しながら、ゼロエミッション、イノベーションの牽引、地域活性化、世界展開を九州が先導することで、日本経済の発展につなげるべき。
九州にとって、環境金融のテーマは特に重要であり、世界から投資を呼び込む仕組みづくりが重要。
東京大学公共政策大学院の有馬純教授をお招きし「コロナウィルスと地球温暖化問題」というテーマでご講演いただいた(講演要旨は、以下の通り)。
・コロナによる世界エネルギー需要(2020年)への影響は、▲6%と過去70年間で最悪、リーマンショックをはるかに上回る水準。
・コロナ禍により2020年のCO2排出が前年比減になることは確実だが、景気回復によりリバウンドする可能性大。
・コロナ禍によって世界的に温暖化防止の優先順位が一時的に低下することは不可避。
・トランプの米国では温暖化は無視。他方、バイデン政権が誕生すると流れが変わる。
・中国もインドも現在の回復局面で温暖化をプライオリティにはしていない。
・欧州主要国はコロナ禍の下でも温暖化目標の野心レベルの引き上げを志向。コロナ禍からの景気回復パッケージの柱に脱炭素化を掲げる方向。
・IEAの”Sustainable Recovery Plan”にあるような巨額な官民投資を先進国、途上国で行うためには巨額な資金移転が必要。
・コロナ後の中国対欧米の構図、グローバリズムの減退、ナショナリズムの勃興等も温暖化アジェンダの追求に影響。
・コロナ禍からの回復期にグリーンリカバリーの要素をどの程度盛り込むかが今後の焦点。
・IEAの”Sustainable Recovery Plan”にあるメニュー(送電網、省エネ、再エネ、電気自動車・省エネ車、革新的技術開発)の有効性は各国の状況によって異なる。
・コロナによる経済ダメージが大きい状況下で、再エネ推進や電気自動車推進がエネルギー価格の上昇等、国民負担増につながる場合、そうした施策への企業、家計のアレルギーは強まる可能性大。発展途上国ほどその度合いが大きい。
・日本においては変動性再エネの導入拡大を容易にするための送電網強化、将来の競争力拡大につながるエネルギーR&D等が有効。化石燃料価格の低下により、再エネの補助負担は拡大しており、更なる間接補助の拡大には慎重であるべき。
・石炭もエネルギーミックスを構成する手段の一つ。非効率石炭火力のフェードアウトについては、電力需要パターンの変化、原発再稼動の進捗、ガス価格の動向、再エネコスト低下動向等を見極め、電力料金の上昇につながらない形で進めるべき。
提言の具現化を目指し、以下のメンバーでパネルディスカッションを行った。主な意見は以下の通り。
【テーマ】九州のエネルギーの強みを活かした地域活性化戦略
【モデレータ】
九州大学副学長・主幹教授 佐々木一成氏
【パネリスト】
東京大学公共政策大学院教授 有馬 純氏
九州電力㈱ コーポレート戦略部門 部長
松本 一道氏
【主な意見】
・九州が東京と同じことをやっても特徴が出なくて日本の中で注目されない。国内外から九州に投資が集まる魅力あるエネルギーブランドづくりが大切。
・九州のゼロエミ比率(2018年)は56%と、国の2030年エネルギーミックス目標を既に達成、ドイツのゼロエミ比率(49%)をも上回っている。また電力料金(コスト)をみても全国トップレベルの安さである。九州=先進モデルの一つとして世界にPRできるのではないか。
・九州モデルという見方は非常に大切。非化石電源でドイツを上回るのもユニークだし、変動性再エネの高いシェアを抱えつつ、いかに電力を安定供給するか全国よりも一段フェーズの高い課題と向き合っている。アジアに近い九州で水素やメタネーションなど革新的技術開発を行うのもPRできる。九州の安い電力料金は原子力や石炭などバランス良い電源構成によるところが大きいという現実解もアジアにアピールできる。
【フロアの意見】
・天然ガスの普及拡大、家庭用燃料電池をはじめとしたコジェネレーションの普及拡大、VPP実証、燃料転換、メタネーションなどに取り組んでいきたい。
・欧州中心の環境ルールに取り込まれるだけでなく、九州独自の環境ルールを構築し世界に発信していくことが重要
・九州の都市インフラも環境配慮型にしていくことが重要
・サプライチェーンの見直し・国内回帰の動きを見据えて、九州への立地=安価な電力&立地することだけでクリーンということを積極的にPRすべき
・ESG購買の動きが始まりつつある。需要側がCO2フリー電力を買いやすくする仕組みづくりが重要。
以上