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国際委員会 - 活動実績

「米朝、対話か戦争か ―ニュースの読み方―」 時事通信 外信部 編集委員(前ワシントン特派員) 水本達也氏 (国際委員会 特別講演会)
平成30年2月23日

◇北朝鮮の核・ミサイルをめぐる動き◇

 北朝鮮の核・ミサイル開発問題は1993年3月に同国が核拡散防止条約(NPT)を脱退以降、過去25年間、緊張と融和の繰り返しだった。平昌冬季五輪を契機とした今回の融和ムードへの変化もこれまでのパターンの一環とみることができる。報道は北朝鮮のミサイルの発射回数や米国に届くかどうかをクローズアップし、米朝間の緊張に焦点を当てている。しかし日本にとっての危機の本質は、北朝鮮が東京以西の西日本全域を射程距離に収めるスカッドミサイルを1,000発程度保有し、米朝間の有事の際には韓国や日本に向けて発射する可能性を排除できないことだ。

◇現状の分析◇

 北朝鮮が核開発を続けるのは、当初韓国との通常戦力の差を克服するためであり、その後、周辺国からの経済支援を得るための外交カードとなった。米国が過去、ソウルをいつでも攻撃できる北朝鮮に対し軍事行使できなかった事実を考慮すれば、北朝鮮は既に「抑止力」を手にしていることになる。つまり金正恩朝鮮労働党委員長が核開発に固執するのは「核の抑止力」を備えるためではなく、核兵器を保有して米国と対等に渡り合うことで、父親の故金正日総書記からの世襲の正当性を国内で認めさせるためではないか。
 一方、米国にとっての真の脅威は北朝鮮によるミサイル保有や核攻撃の可能性というより、その核技術が世界に拡散することだ。核兵器がテロリストに渡ると米国が核攻撃を受ける危険性が高まる。その意味で、米国の戦略目標は北朝鮮に核開発をやめさせることであり、体制崩壊は視野に入れていない。トランプ氏が「軍事行使」に言及するのは、政権の覚悟と本気を示しているのであって、現実的には経済制裁を駆使した外交的な解決を目指していると受け取るべきだろう。

◇関係国・当事国の戦術・戦略◇

 北朝鮮は厳しい制裁逃れを図るとともに、南北首脳会談開催で日米と韓国の分断を図ろうとしている。今後もミサイル発射などの挑発行動はやめない可能性がある。これに対し、日米は国際的な経済制裁体制で北朝鮮を封じ込め、外交交渉に引っ張り出す戦術を取っている。しかし制裁の効果がなく挑発行動がエスカレートすれば、米国は北朝鮮へのサイバー攻撃、さらには「鼻血作戦」と呼ばれる限定的な軍事作戦に着手するかもしれない。
 日米の温度差もある。北朝鮮の「核」は日本にとっては目の前の脅威だが、米国は長期的な安全保障の問題として捉えている。日本は歴史的な関係や拉致問題があることから、北朝鮮への国民感情を無視できない。一般的な米国人にとって北朝鮮は極東の遠く離れた国で、指導者が国際的なルールを無視して核開発をしているという認識。米メディアは、トランプ氏がこの挑戦に対処できる資質があるかどうかを注視している。
 今後、北朝鮮が中止を求めている4月の米韓合同軍事演習をめぐり緊張が高まるのは確実。北朝鮮側の口先だけの非難で終わる場合、南北首脳会談に進む公算が高い。最終的に米朝の対話に結びつく可能性もあるが、予断を許さない。一番望ましい方向は、核開発を凍結する代わりに欧米が経済制裁を解除したイラン核合意型の決着に至ることだが、金正恩氏にとって核開発自体が自己承認の源になっており、簡単ではない。
 北朝鮮がミサイル発射や核実験を再開した場合、米国の軍事作戦が現実味を帯びる。北朝鮮からの反撃がなければ、金正恩氏が交渉のテーブルに着くというシナリオもあり得る。反撃があるとすれば、ソウルや東京が標的になる可能性は十分にある。偶発的衝突は、シナリオのない戦争に突入することになる。
 朝鮮半島有事の日本への影響としては、韓国からの避難民の流入や外国人観光客の激減。北朝鮮が米海軍の強襲艦の寄港地である佐世保基地などを攻撃する可能性もある。

◇まとめ◇

 平昌五輪の開会式出席に合わせてペンス米副大統領と北朝鮮高官が秘密裏に会談することで合意していたというが、これはよいニュース。北朝鮮が米国との対話を求め、米国も受け入れた。具体的な協議がなくても、双方のメッセージを伝え合うという意味がある。偶発的な衝突や軍事作戦のリスクが減るのであれば、対話はゼロよりあった方がよい。日本の政府高官も、表向きは強硬姿勢を取っているものの、本音では米朝対話があることを願っているのではないか。

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水本 達也(みずもと たつや)氏

1968年6月、鎌倉生まれ。横浜市出身。早大院(アジア太平洋学科)修了。1993年、時事通信入社。社会部、盛岡支局、外信部、ジャカルタ特派員(2001~2005年)。政治部(外務省担当)を経て2012年5月から2017年6月までワシントン特派員。現在、外信部編集委員。Forbes JAPAN(フォーブスジャパン)のオフィシャルコラムニスト。著書に『インドネシア』(中公新書)など。

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